退職倒産とは?人手不足で会社が倒産する原因と中小企業の防衛策

近年、企業経営を脅かす問題として深刻化しているのが、従業員の退職をきっかけとする「退職倒産」です。

帝国データバンクの調査によると、2025年に判明した「従業員退職型」の倒産は124件に上り、前年の90件から約37.8%増加しました。調査可能な2013年以降で初めて年間100件を超え、過去最多を更新しています。

退職倒産は、従業員や経営幹部などの退職によって人手不足が深刻化し、事業の継続が困難になる現象です。特定の社員に業務やノウハウが集中している企業では、一人の退職が業務停止や顧客離れを招き、経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

特に、採用難や人件費の上昇に直面している中小企業にとって、人材の流出は見過ごせない経営リスクです。

この記事では、退職倒産が発生する背景や連鎖退職に至るメカニズム、見逃してはいけない予兆、そして中小企業が取り組むべき具体的な防衛策について解説します。

退職倒産とは?近年増加している背景

退職倒産は人手不足倒産の一つ

退職倒産とは、従業員や経営幹部などの退職が引き金となり、事業の継続が困難になって倒産に至る現象です。

帝国データバンクなどの調査では、「人手不足倒産」の一類型として「従業員退職型」に分類されています。

従来、企業の倒産といえば、売上の減少や資金繰りの悪化、過大な借入金などが主な原因として注目されてきました。しかし、人手不足倒産では、受注や需要があっても、業務を遂行する人員を確保できず、事業の継続が困難になるケースがあります。

例えば、次のような状況が考えられます。

・受注は確保できているものの、現場の人員が不足して納期を守れない
・専門的な技術を持つ社員が退職し、製品の製造やサービスの提供ができなくなる
・営業担当者の退職によって重要な顧客との関係が弱まり、受注が減少する
・管理職や経営幹部が相次いで退職し、組織の運営が困難になる

こうした問題が重なると、売上の減少や取引先からの信用低下を招き、資金繰りにも影響が及ぶ可能性があります。

ただし、退職倒産は必ずしも黒字企業だけに発生するわけではありません。もともと経営が厳しい企業で人材流出が進み、経営状態がさらに悪化するケースもあります。

退職倒産が増加している3つの背景

退職倒産が問題視される背景には、労働力人口の減少や転職市場の変化、働き方に対する意識の変化などがあります。

1. 少子高齢化による構造的な人手不足

日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少が長期的な課題となっています。

その影響もあり、多くの業界で人材の確保が難しくなっています。特に、専門的な技術や資格が必要な職種では、退職者が出ても同等のスキルを持つ人材をすぐに採用できるとは限りません。

中小企業では、採用活動に十分な予算や人員を割けない場合もあります。一人の退職によって生じた欠員が長期間埋まらず、残された従業員の負担が増えることも考えられます。

こうした状況が続けば、業務の遅延やサービス品質の低下につながり、事業運営そのものが不安定になる可能性があります。

2. 転職市場の活発化と人材の流動化

かつては、一つの会社で長く働き続けることが一般的なキャリアの選択肢とされていました。しかし、現在では、給与や労働環境、キャリアアップの機会などを求めて転職することも広く選択されています。

特に、専門的なスキルや経験を持つ社員は、ほかの企業から採用を求められる機会もあります。

そのため、待遇や働きやすさに不満がある場合、優秀な若手・中堅社員ほど早い段階で転職を決断する可能性があります。

大企業と比べて賃金や福利厚生の面で競争が難しい中小企業にとっては、人材の流出を防ぐための職場環境づくりが重要な課題となっています。

3. 働き方や職場環境に対する意識の変化

働き方改革の進展などにより、長時間労働の是正やワークライフバランスの確保、ハラスメント対策などへの関心が高まっています。

従業員に過度な負担をかける職場や、適切な評価が行われない職場では、離職を選択する人が増える可能性があります。

また、慢性的な人手不足によって一人当たりの業務量が増え、休暇を取りにくくなったり、残業が常態化したりすることも問題です。

人材不足を解消するために採用を進めても、職場環境が改善されなければ、採用した社員が定着せず、再び人手不足に陥るおそれがあります。

退職倒産はどのように発生するのか

退職倒産は、一人の社員が退職しただけで直ちに発生するものではありません。しかし、業務の属人化や人員配置の余裕のなさなど、複数の問題が重なっている企業では、一人の退職が経営危機につながる可能性があります。

1. キーマンの退職によって業務が停滞する

中小企業では、特定の社員が重要な技術やノウハウ、顧客との関係を担っているケースが少なくありません。

例えば、長年にわたって特定の製造工程を担当してきた技術者や、主要な取引先との交渉を一手に担ってきた営業担当者などです。

こうした社員が退職すると、後任者が業務を引き継げず、製造や営業活動が停滞する可能性があります。

業務手順がマニュアル化されていなかったり、顧客情報が個人の管理する資料や記憶に依存していたりすると、引き継ぎも難しくなります。

その結果、納期の遅延や品質の低下、顧客からの信用失墜などを招き、事業の継続に影響が及ぶことがあります。

2. 連鎖退職によって組織が機能しなくなる

退職倒産のリスクは、キーマン一人の退職だけではありません。退職をきっかけに、ほかの従業員も次々と辞めていく「連鎖退職」にも注意が必要です。

例えば、現場をまとめていた管理職や、部下から信頼されていた先輩社員が退職すると、残された従業員が将来に不安を感じる場合があります。

「会社の将来に希望が持てない」「自分たちの負担も増えるのではないか」といった不安が広がれば、ほかの社員も転職を検討する可能性があります。

特に、職場の人間関係や働きやすさを支えていた社員の退職は、職場全体の雰囲気に影響することがあります。

もちろん、一人の退職が必ず連鎖退職につながるわけではありません。しかし、経営陣が退職の背景を把握せず、残された従業員への説明や支援も行わなければ、不安や不満が拡大するおそれがあります。

3. 残された社員の負担が増え、さらに退職者が出る

従業員が退職すると、その社員が担当していた業務を残されたメンバーで分担しなければならない場合があります。

新たな人材を採用できるまでの間、既存の社員が残業や休日出勤で対応することもあるでしょう。

しかし、人員不足が長期化すると、疲労やストレスが蓄積し、業務の品質低下やミスの増加を招く可能性があります。

さらに、負担の増加に不満を感じた社員が退職すれば、残された従業員の負担は一層重くなります。

このような悪循環に陥ると、採用活動を進めても業務を立て直せず、最終的に事業の縮小や廃業、倒産を検討せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。

退職倒産の予兆とは?見逃してはいけないサイン

退職倒産を防ぐためには、従業員が退職してから対応するのではなく、日頃から職場の変化を把握しておくことが重要です。

退職の兆候が必ず事前に現れるとは限りませんが、次のような変化が複数見られる場合は、組織の状態を見直す必要があります。

特定の社員に業務が集中している

特定の社員しか対応できない業務が多い場合、その社員の退職や休職によって業務が停止するリスクがあります。

特に、重要な業務の手順が文書化されていない、顧客情報が共有されていない、担当者が不在になると判断できる人がいない、といった状態には注意が必要です。

また、優秀な社員に仕事が集中し、長時間労働が常態化している場合も、離職リスクが高まる要因となります。

職場の会話やコミュニケーションが減っている

職場内の会話が減ったり、従業員が会議で意見を述べなくなったりしている場合、組織内のコミュニケーションに問題が生じている可能性があります。

もちろん、会話が少ないことだけで退職の兆候と判断することはできません。しかし、以前と比べて職場の雰囲気が変わった場合は、従業員が不満や悩みを抱えていないか確認することが大切です。

残業時間の増加や休暇取得の難しさが続いている

人員不足によって特定の部署の残業時間が増加していたり、有給休暇を取得しにくい状況が続いていたりする場合は注意が必要です。

従業員が十分に休息を取れず、心身の負担が大きくなれば、離職につながる可能性があります。

残業時間や休暇取得状況を定期的に確認し、負担が特定の社員に偏っていないかを把握することが重要です。

退職理由や従業員の不満を把握できていない

経営陣が従業員の不満や悩みを把握できていない場合、問題が深刻化してから初めて実態に気付くことがあります。

特に、従業員から目立った不満が出ていないからといって、職場環境に問題がないとは限りません。

日頃から相談しやすい環境を整え、退職者が出た際には、可能な範囲で退職理由を把握し、組織の改善に活かすことが大切です。

退職倒産を防ぐために中小企業が取り組むべき防衛策

退職倒産を防ぐためには、採用活動を強化するだけでなく、従業員が辞めても事業を継続できる体制と、従業員が長く働き続けたいと思える職場環境を整える必要があります。

1. 業務の標準化と属人化の解消

まず取り組みたいのが、特定の社員に依存した業務を減らすことです。

業務の手順や判断基準、顧客情報、取引先との対応履歴などを文書化し、組織内で共有できる状態に整えます。

具体的には、次のような対策が考えられます。

・日常業務や重要業務のマニュアルを作成する
・顧客情報や業務データを組織で管理する
・重要な業務は複数の社員が対応できるようにする
・担当者が不在でも業務を継続できる代替要員を育成する
・定期的に業務手順や引き継ぎ内容を見直す

また、一人の社員が複数の業務を担当できるようにする「多能工化」も有効な方法です。

ただし、単に複数の業務を任せるだけでは、従業員の負担が増える可能性があります。教育の時間を確保し、業務量や評価制度にも配慮しながら進めることが重要です。

2. 従業員が働き続けたいと思える環境を整える

人材の流出を防ぐためには、給与だけでなく、働きやすさや人間関係、キャリア形成などを含めて職場環境を見直すことが重要です。

例えば、次のような取り組みが考えられます。

・長時間労働やサービス残業をなくす
・有給休暇を取得しやすい体制を整える
・業務量や責任が特定の社員に偏らないようにする
・ハラスメントを防止する仕組みを整備する
・業務内容や家庭の事情に応じて柔軟な働き方を検討する

リモートワークやフレックスタイム制なども選択肢の一つですが、すべての職種に適用できるわけではありません。自社の業務内容に応じて、実現可能な方法を検討する必要があります。

また、待遇の改善を検討する際は、企業の収益力や人件費の負担も踏まえ、継続的に実施できる施策を選ぶことが大切です。

3. 評価制度と給与体系を明確にする

従業員が仕事への意欲を失う要因の一つに、評価や処遇への不満があります。

努力や成果が適切に評価されない、昇給の基準が分からない、責任が増えても待遇が変わらないといった状況が続けば、転職を検討するきっかけになる可能性があります。

そのため、何を達成すればどのように評価されるのか、昇給や昇進の条件は何かを明確にし、従業員に説明することが重要です。

評価基準を整備する際には、売上などの数値だけでなく、業務の品質、後輩の育成、チームへの貢献なども考慮するとよいでしょう。

また、評価結果を伝える際には、良かった点だけでなく、今後期待する役割や改善点についても具体的に説明することが大切です。

4. 定期的な面談で不満や負担を早期に把握する

従業員の不満や悩みを把握するためには、日頃から対話の機会を設けることが重要です。

例えば、上司と部下が定期的に話し合う1on1ミーティングを実施し、業務量や職場環境、キャリアに関する希望などを確認する方法があります。

面談では、業務上の問題だけでなく、負担を感じていることや、改善してほしいことについても話せる雰囲気をつくることが大切です。

ただし、面談を実施するだけでは十分ではありません。従業員から寄せられた意見を検討し、必要な改善につなげることが求められます。

また、上司に直接相談しにくい従業員もいるため、匿名アンケートや相談窓口など、複数の方法を用意することも有効です。

5. 採用・育成体制を整え、人員に余裕を持たせる

退職倒産のリスクを抑えるためには、欠員が発生した際に迅速に対応できる採用・育成体制も重要です。

常に最低限の人員だけで業務を回していると、一人が退職しただけで、ほかの従業員に大きな負担がかかる可能性があります。

そのため、業務の繁閑や必要なスキルを踏まえて人員配置を見直し、可能な範囲で代替要員を確保しておくことが望まれます。

また、採用活動は欠員が発生してから始めるのではなく、必要な人材像を明確にし、採用手段をあらかじめ検討しておくことが重要です。

社員から知人を紹介してもらうリファラル採用や、人材紹介会社の活用、採用情報の定期的な発信など、自社に適した方法を組み合わせるとよいでしょう。

採用と並行して、入社後の教育や定着支援にも取り組むことで、人材不足の悪循環を防ぎやすくなります。

まとめ:退職倒産を防ぐには組織全体の見直しが必要

退職倒産は、従業員や経営幹部などの退職によって人手不足が深刻化し、事業の継続が困難になる経営リスクです。

近年は、従業員の退職を要因とする倒産が増加しており、特に人材の確保が難しい中小企業では、業務の属人化や人員不足が経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

一人の退職が直ちに倒産につながるわけではありません。しかし、重要な業務を特定の社員に依存していたり、残された社員の負担が増え続けたりする状況では、連鎖退職によって事業運営が困難になるおそれがあります。

退職倒産を防ぐためには、業務の標準化やマニュアル整備によって属人化を解消するとともに、適切な評価制度や働きやすい職場環境を整えることが重要です。

また、従業員との対話を通じて不満や負担を把握し、採用・育成体制を計画的に整えることも欠かせません。

人材は企業の事業継続を支える重要な経営資源です。特定の社員に依存しすぎない組織づくりと、従業員が安心して長く働ける環境づくりを進めることが、退職倒産のリスクを抑えるための重要な対策となるでしょう。